2017年1月30日月曜日

ブランドへの憧れ

きっとマーケティングの永遠のテーマでしょう。
どうやったらブランド力を持つことができるのか。

どんなに良い酒を造っても、
たとえ自分の酒が鑑評会で首席をとったとしても、
ブランドとして認知されなくては、酒は売れません。
もちろん、まったく売れないわけではない。
努力次第で、そこそこは売ることができます。
でも、普通以上には売れないし、
頑張って売り続けなくては、売上を維持することもできません。

ブランド力を持って売れ続けている酒を見ると、
ジェラシーを感じてしまうのです。
どうやったら、うちの価値って伝わるのだろう?

外国の方をはじめ、日本酒のことを良く知らない方々と酒の話をして感じること。
彼らは、本当に日本酒のことを良く知りません。
ですから、こちらが強く勧める酒は 「おいしい」 と言ってくれるケースが多いのです。
自分のなかに、「おいしい酒」 の定義がない方々には、
信頼のできる他人やメディアからの情報は、「神の声」のようなものなのです。

ブランドとは、「安心」なのかもしれない。
ベストではなくても、これを選んでおけば、
少なくとも恥ずかしい思いはしなくて済む。
ファッションでも音楽でも、
グルメでもインテリアでも、
確かにそんな心理をもって、私たちはブランド品を選んでいます。

本当に自分の選択眼に自信を持っている方は、
ブランド品は選ばず、
安価なものから高級品まで、
広い選択肢のなかから、しっかりと選びます。

自信を持っている方は、それを人に伝え、人の高評価を得ることで自尊心を満たします。
それが口コミを呼ぶのでしょう。
オピニオンリーダーのブログやSNSも口コミの元になります。

様々なルートを通じて「売れる酒」が育ってゆくのです。
色々とやることが多くて面倒なのですが、
少なくとも良い酒を作ってさえいればいいというものではないでしょう。

私は流通の出身なので、
流通の役割というものを考える機会が多かったのですが、
今の時代に、流通がブランドを育てるという構図は、なかなか考えにくくなりました。
流通がブランド形成に関わることができるのは、
市場が幼い時代、まだ何も知らない人が多い時代。
専門メディアが育ち、
オピニオンリーダーが沢山現れてきた現在ではない気がします。
ゼロから価値を作り上げるような仕事が必要なのではないでしょうか。

ものを販売するって、本当に奥が深い。
市場を自由に操る術を知っていたら、どんなに楽しいだろう。
どんなに楽だろうと思いますが、
そんなものわかるはずもありません。

当たり前の結論ですね。

2015年4月6日月曜日

熟成した酒を楽しむ

3年以上熟成した酒を
「古酒」とか「熟成酒」とか「熟成古酒」とか呼ぶのですが、
1年~2年熟成した酒につける名前はありません。

3年以上熟成した酒が古酒と呼ばれるのは別に良いのですが、
2年半熟成したものと3年熟成したものに、
絶対的な品質の差があるわけではありません。
熟成とは、アナログな時間の経過ですから、
酒は徐々に熟成していくわけです。

私は以前からヴィンテージをつけるべきと思っているのですが、
なかなかヴィンテージをつけてくれる蔵元は少ないのです。

ヴィンテージをつければ、
アナログな時間経過で0年からずっと熟成を追う楽しみができる。
どんな酒がどれくらい経ったものが一番美味しいか、
なんて酒の楽しみ方が出来る。

ヴィンテージをつけることが一般的になってくれば、
一方でヴィンテージをつけない酒、
複数年次のブレンド酒の意味も生まれます。
これこそ奥の深いプロの世界です。
マッサンの世界です。

皆様ご存知のとおり、
シャンパンハウスは、ノン・ヴィンテージのブランドを継続して販売するために、
このブレンド作業をしています。
他でもない、そのシャンパンハウスの味を、
再現性をもって造り続けるために、
ブレンドという作業をしているのです。

ブレンドとヴィンテージというと、
何となくヴィンテージの方が高級なイメージがあるかもしれませんが、
ブレンドの価値は極めて高いものですし、
その技術を磨くことで、他社との絶対的な差別化を図ることもできます。

さて、
そんな熟成した酒を楽しむ会を吉祥寺の「ハモニカ横丁」でやりました。
木戸泉・達磨正宗・東力士という、40年以上にわたって、
同一スペックの複数ヴィンテージの酒を貯蔵している蔵元の酒を、
チーズを切り口にした食事と楽しもうという企画です。

熟成酒は、実際に市場ではほとんど売れていませんが、
このような場で、食とのマリアージュを演出してみると、
誰もが感嘆の声を上げます。
本当に美味しいし、
何だか熟成酒でないと満足できなくなってしまうというような。

どうやら、「演出する」というところにキーポイントがあるような気がしました。
真剣に熟成酒を作り、
その市場を信じている人達とともに、
少し頑張ってみたいと思っています。

有志よ、集まれ!

2015年3月6日金曜日

続けるということ

昨日は、秋田県の酒の会に行ってきました。
Next5 を筆頭として話題の多い県ですから、当然注目度も高く、
沢山の方がお見えになっていました。
私は業界関係者のきき酒会に行きましたが、
夜の楽しむ会も盛況だった様子ですね。

きき酒をして、話を聞いて、
それぞれの蔵元が、どんどん変化していることが
とても面白く感じられます。

昨年までは全然違うタイプの酒だったのに、
というような蔵もあります。
ラベルがすっかりと垢抜けてしまった蔵もあります。
それぞれに一生懸命努力されているのです。

あ~っ、やっぱりすごく好きだな、という酒もありました。
自分が密かに応援している蔵元が
良いパフォーマンスをしていると、
それは嬉しいものです。

酒は毎年変化し、蔵元の取り組みも毎年変化します。
だから毎年新しい発見がある。
今、ここの蔵元が面白いぞ、というものが必ずあります。

商売をする方々は、
酒販店にせよ、飲食店にせよ、
その新しい発見を商売に繋げて欲しいと思います。
自分が五感で感じた実感と、
自分が集めた様々な情報を、
自分のスタイルで商売に結びつけ、
自分の言葉で消費者に伝える。
ここにプロの心が在るのだと思うのです。

私は流行というものがあまり好きではありません。
これは、酒に限ったことでなく、
ファッションでも芸術でも良いのですが、
他人に踊らされている自分というものが、
どうも面白くありません。

多くの商売人たちは、
流行のものを必死に追いかけて、
売ろうとする。
それが、さらに流行を増幅させます。
別に悪いことではない、当然のことかもしれません。
一番合理的で短期的に利益を回収することができる手段ですから。

流行るものには、流行る理由があります。
ですから、流行の先端にのぼりつめる製造元の力は素晴らしいですし、
その商品をいち早く見つけ、商人として成功されるのは見事なことです。
やはり、プロとして働くからには、
そこを目指して努力し続けなくてはなりません。

でも流行に追いかけられるのはいやです。
あくまで追いかけるポジションに身を置きたい。
それが私の意固地です。

華やかな舞台で脚光を浴びなくても、
黙々と自分のなすべきことを信じて歩んでいる人々が、
私は好きです。
酒の世界には、そんな人が沢山います。
その人々を、
私は遠くから見守り続け、
見ているから頑張ってね、とエールを送り続けます。

飲みやすくてわかりやすい酒も良い。
魅力的な香りも良い。
複雑でどっしりとした酒も良い。
毎日飲んでも飽きない酒も良い。
本当に色んな魅力があるのです。
そして毎年の変化があるのです。

何かを続けるっていうことは難しいですね。
でも、続けることには価値があります。
製造者にせよ、販売者にせよ、
自分の求めるものを持ち、
求め続けている方は美しいと思います。
変化は、求め続けた結果であるべき。

私はフラットな心で、それを見続けていたいと思っています。

2015年2月17日火曜日

伝統?革新?

高名なアメリカ人の酒ジャーナリスト ジョン・ゴントナーが主宰する
酒プロフェッショナルコース・アドバンスクラスで講演をする機会を貰いました。

彼は日本でこのセミナーをやることにこだわっていて、
毎年、世界各国から沢山の受講生が日本にやってきます。
今年も30名位の受講生が参加していました。
高いお金を払って、
本当に熱心に勉強する姿勢に胸を打たれます。

日本の流通や料飲店も、
もっともっと熱心に勉強するべきです。
日常的に、当たり前にそこにあるものに対して、
改めて真剣に向き合うのは、ちょっと違和感があるのかもしれません。
海外で酒に出会った人達は、
未知の世界に出会う喜びのようなオーラを
全身から発しています。

「昔から日本の文化に興味があって、
着物を集めたり、マンガを読んだりしてきました。」

「日本の食べ物の奥深さにはまってます。」

色んな声が聞こえます。
一様に、日本に来て、本物の文化にどっぷりと漬かれることを
心から楽しんでいるという雰囲気が素敵です。

このような知や体験への欲求は、
前向きな行動のモチベーションになります。
こういう姿勢が、私は好きなんだなぁ。
物事を斜めから見たり、
裏で批判したり、
そんな負のオーラを発しても、
何の役にも立ちませんから。

さて、私の講演に対して、
色々な質問を頂いたのですが、
それを聞いていて感じたことがあります。
海外の人の方が、
日本の伝統産業が酒が本質からずれていくことに危惧を持っていて、
本来のど真ん中にこだわっているということです。

例えば、
食文化が西欧化していくことや、輸出が増えることで、
世界の様々な国の人の味の好みに変質していくこと。
本来の形があったものが、
様々に味を変えてゆくことを、日本人が危機と感じていないのか、とか。

至極まっとうなご意見だと思うのです。
確かに、今の若い造り手達が、様々な新しい試みをしています。
その結果、すごく香りの強い酒や、
酸が太くて、こってりとした旨みの強い生原酒や、
リンゴ酸のジューシーな酸味に溢れた酒だとか、
若い世代や女性が好むタイプの酒は、
かなり昔のスタンダードと変わってきています。

文化としての酒を語る時に、
それは良いことなのかどうか、
考える人がいても良いような気がしました。

私は変化することは大いに良いことであると思っています。
たとえ、伝統の本質からずれていったとしても、
造り手や飲み手の心の中にあるものが清酒であれば、
それが新しい伝統に繋がっていくものだと思うからです。

恐らく日本人は皆そう思っているでしょう。
伝統とは革新の連続である、という老舗の言葉が、
本質であると知っているからです。
でも、
改めて外国の人から、
真剣な顔をしてそんな質問をされると、
思わずフームとうなってしまうのです。

外の世界を知るという作業は、
本当に楽しい。

2015年2月10日火曜日

硬水で醸す酒

硬水・軟水といいますが、
日本は山の多い国ですから、
ほとんどの水は飲みやすい軟水です。
きれいな山の水であるほど、そのまま飲んで美味しい軟水。
田舎に行っておいしい山水を飲むと、
あぁ、日本人に生まれて良かったと、しみじみ思います。

一方で、硬水で酒を造っていますという蔵元には、
実はなかなか出会うことがありません。
もちろん、日本を代表する酒の産地である灘の宮水は硬水で知られています。
でも、それ以外は、
たまにポツポツと出会うくらいでしょう。

硬水の湧く地域というのは、
一概には言えませんが、
比較的、山と海の境目というイメージがあります。
山の水と海の水がせめぎあったところに湧き出す水。
海のミネラル分が染み込んだ水。
時に、これ塩化ナトリウムじゃないの?
と思うくらい塩辛い水に出会うこともあります。

そんな、
どちらかと言えば珍しい硬水で酒を醸す千葉県の2蔵に行ってきました。
ひとつは、いすみ市大原の木戸泉酒造。
もうひとつは、隣町の御宿にある岩の井酒造。
木戸泉は硬度8~9の中硬水、
岩の井は硬度13~15の硬水。
いずれにしても立派な硬水醸造の蔵です。
特に岩の井の水は、飲んだだけで誰にもわかる硬水です。

どちらの蔵も、
国税庁技官の古川 董(ただす)先生に技術指導を受け、
古くから熟成して美味しくなる酒を目標に酒造りをしてきました。
「兄弟蔵みたいなもんです」 と木戸泉の荘司社長はおっしゃっています。

熟成して美味しくなる酒とは、
力強い酸味が酒の外枠を形取り、
複雑味のある味わいと、ほのかな甘みのある酒。
いずれにしても、
今流行っている若く生で飲んで美味しい酒とは、
根本的に目指す酒質がちがっています。

時代に媚びない酒を造り続けるのは、
実はとても度胸がいることだと思うのです。
自分の造る酒を信じて、
どんどん売れる酒を、敢えて造らないのは、
外から見れば無神経とも言える度胸が必要です。

おおらかで感性豊かな田舎人というタイプの荘司社長と、
繊細で物静かな岩瀬社長は、
全然違う二人ですが、
おおらかさや物静かさの底に、
とても強い芯を持っておられるのでしょう。

こういう蔵の酒を味わっていると、
「酒は人なり」 と、つくづく思わされます。
日本人のハートには、
この武士のようにストイックな精神が刺さります。

硬水であれ軟水であれ、
水の味は千差万別。
でも、折角縁あって与えられた硬水の個性を、
生かし切った酒造りを続けて欲しいと願います。

2015年2月7日土曜日

東京港醸造

流通が進歩して、遠方からのチルド輸送が可能になったとはいえ、
生酒の流通にはどうしても心配が残ります。
流通過程での温度変化は、本来の酒のフレッシュ感を損ない、
熟成の進行を止めることができません。

一番美味しい酒を飲もうと思ったら、
蔵元で飲むしかない、というのが本来の生酒であると思います。

少し前の新酒は、粗くて、落ち着きがなくて、
しばらく置いてからでないと、とても飲めないものでしたが、
最近ではフレッシュな状態で飲む酒を造る蔵元が増え、
搾ってすぐに飲める軽快な生酒が流通するようになりました。
軽快でジューシーな生酒は、
今の清酒ブームを牽引する存在です。

醸造設備も進み、コンパクトな四季醸造蔵が現れました。
蔵元一人で酒を造り、一年中生酒しか造らないという
実に現代的で合理的な酒造りが行われるようになっています。
酒造りは、地方の1000坪もある歴史的建造物で行う時代ではなくなってきました。

こうなれば、
大消費地である東京に清酒のミニブルアリーが出来なくてはおかしい。
そう思っていました。
そこでしか飲めない魅力的でバラエティーに富んだ生酒。
レストランを併設して売店を置けば、必ずビジネスになる気がします。

クラフトビールが、着々と市場を広げています。
ミニブルアリーも増えています。
私の近所にある 「荻窪麦酒工房」は、
ほんの小さな一軒家で、ドラム缶のようなタンクに5種類のビールを仕込み、
いつも新しいフレーバーの楽しいビールを飲ませてくれます。
ペットボトルを持参すれば、量り売りしてくれるので、
家で出来たての生ビールを飲むこともできるのです。

クラフトビール先進のアメリカでは、
すでに数千軒のミニブルアリーがあると聞きます。
日本の市場も、間違いなく伸びると思いますし、
一大ブームになる可能性もある。

清酒業界は何をやっているのだろうと、イライラしていました。
そうしたら、あったのです。
東京港醸造。
三田駅から10分ほど歩いたビジネス街のど真ん中に、
まさにミニブルアリーという規模の醸造所がありました。

聞けば、既に4年前から営業していたとのことですから、
私の情報不足としか言いようがないのですが、
とにかく、200年前の江戸時代から、芝で酒造りをしてきた若松屋という蔵元が、
明治末期に廃業していたものを7代目・8代目の親子が復活させたという醸造所です。

但し、廃業の際に清酒免許を返上しているために、
現在も「その他醸造酒」の免許にて どぶろく を製造しているのです。
長く黄桜で製造をしていた寺澤善実さんを杜氏として迎え、
本格的などぶろくを造っておられます。
プロの造るどぶろくですから、
経済特区の民宿で造られるどぶろくとはレベルが違います。

早く、美味しい清酒の生酒が飲みたい。
そして、まだまだ清酒の楽しさを知らない多くの東京人たちに、
清酒を飲む楽しさと、奥深さを教えて頂きたいと、
心から応援したい気持ちになりました。

東京の人は、まず一度訪れてみて下さい。
少しわかりにくい場所ですが、
東京のど真ん中です。



2015年2月6日金曜日

渡舟

渡船。
清酒の仕事に携わっている方なら、聞いたことのある酒米の名前です。
でも、聞いたことはあるけど、あまり良く知らない。
そんな少し興味をそそられる米です。

渡船は、有名な山田錦のお父さんです。
山田錦を調べると、父が短稈渡船、母が山田穂とあります。
短稈とは、丈の低いという意味。
山田錦はあんなに有名なのに、
考えてみると渡船も山田穂も、あまり多く使われている印象がありません。
何故だろう。
そんな小さな疑問を持って、
この渡船で有名な茨城県の「府中誉」を訪問しました。

府中誉㈱があるのは茨城県石岡市。
茨城なのに何故「府中」なのだろう、という素朴な疑問は、
きっと多くの人が持つはず。
私の無学をさらすことになりましたが、
石岡の歴史は古く、平安時代から東国の経済拠点として栄えていた町ということです。
経済の中心地としての「府中」。
確かに石岡の街並みは歴史を感じさせる雰囲気を持っています。

安政元年創業の蔵元の建物も歴史を感じさせる重厚なものでした。
広い瓦葺きの屋根、土蔵、広い車寄せのある店。
一般に知られている以上に、
茨城県の東北大震災による建物の被害は大きかったのです。
府中誉の建物も、ほとんどの瓦を葺き替える必要がありました。
私たちは、知らないことが本当に多い。

社長の山内孝明さんから、
府中誉の酒と酒米「渡船」の由来をじっくりと聞かせて頂きました。

東京での勤めを辞して蔵に戻ってきた頃、
まだ地元の米で酒を造るということが今ほど一般的ではありませんでした。
山内さんは、何とか地元に根付いた米作りから始まる酒造りを目指したいとの思いで、
最初は山田錦の栽培に取り組んだそうです。
ただ、正面切って堂々と取り組んだのが裏目に出て、
種の県外流出に神経を尖らせる兵庫県からの行政圧力を受けてしまい、
断念せざるを得なくなってしまいました。

落胆していた山内さんのもとに、
地元の農家から、昔「渡船」という酒米を作っていたという情報が入りました。
そこから、新しい夢に向かった山内さんの取り組みが始まります。
種籾を求めて、農水省の農業生物資源保存機関である Genebank に交渉し、
2年かけてようやく14gの種籾を手にして、1坪の栽培をスタートしました。

米を育てるだけなら出来ることですが、
一定の作付け面積を確保して酒米として使用するには、様々なハードルがありました。
一般的なコシヒカリに比べて極端な晩稲品種である渡船は、
水利の時期が異なるため、新しい耕作地を探す必要があります。
結局、地元から30分ほど離れた八郷町の農家との契約にいたり、
現在にいたっているとのこと。
府中誉の使用総米の約60%で、
純米吟醸から大吟醸まで、ほとんどの酒を渡船で造っておられます。

ゼロからここまで積み上げてきた渡船に対する思いの深さは、
想像するに余りあるものです。
きっと自分の子供のように思えるものでしょう。

私は、このように頑張ってこられた方のお話には
手放しで感激してしまいます。
応援したくなります。

酒は人なり。
酒は、それを造り上げた人を映す鏡のようなものです。
その一滴の酒を造るために積み上げてきた様々な過程が、
必ず、飲む人に伝わる、不思議な飲み物です。

米のひと粒から、搾りあげる一滴の酒まで、
すべての工程に、一切妥協を許さぬ厳しさが求められますが、
しかし、その努力がカタチとして飲む人に伝わるのなら、
造り手は、その笑顔を糧に日々の努力に励むことができるでしょう。

府中誉 「渡舟」 の味わいについては、
飲んだ方の気持ちにおまかせします。
きっと、蔵元の気持ちが伝わる素敵な酒であると確信しています。

2015年1月24日土曜日

薫風の白い餡と日本酒

千駄木に 「薫風」 という、それはそれはユニークなお店があります。
つくださちこ さん という女性がやっています。

「和菓子と酒」をテーマにした店なのですよ、
と聞いてびっくり。
へぇ~、そんな店があり得るわけ… ってなもんです。

昔から酒飲みといえば辛党。
羊羹? そんなもん見たくもねぇ。
というのが相場だと思っていました。

でも確かに、時々羊羹好きな杜氏さんや酒飲みの方がおられるのも、
そういえば耳にしたことがあります。
なにより、つくださん自身の口から、
「和菓子と日本酒はとても良く合うんですよ」と
自信に満ちた言葉が出たものですから、
まぁ、ものは試しに行ってみようと、
ある日、おそるおそるお店に行ってみました。

お店があるのは千駄木の駅から3分くらい。
ふつう家が建ち並ぶの路地を入ったところ。
路地の入口からは、そこに何かのお店があるとはとても思えません。
お店の前に立って初めて 「あぁ、ここか」 と安心するような。
まさに隠れ家。

それほど広くない、落ち着いた店内には、
大きめのテーブルがひとつ。
その周りに椅子が8脚。
二人のご婦人のお客様がお菓子をつまみにお酒を飲んでいました。
「よくいらっしゃるのですか?」 と聞くと、
「はい、しょっちゅう。今日ももう3つめのお菓子を頂いているの。」 とのお言葉。

さっそく私も 「和菓子と日本酒」 の世界にトライだ。
5種類くらいのお菓子のメニューから白餡の羊羹を選び、
それに合う日本酒として、つくださんが栃木の「仙禽」を出してくれました。

びっくり!
カルチャーショック!

白羊羹といっても、普通の羊羹じゃない。
オレンジピールやクミン、グランマニエなどが入った、
ちょっとエキゾチックでスパイシーな羊羹です。
おりがらみでフレッシュな甘口の「仙禽」に素晴らしくマッチします。

つくださんは、協和発酵の研究部門におられた技術者だそうで。
だから、マリアージュの理屈も、妙に説得力があります。
曰く、両者を合わせるコツは2つ。
 ① 似た要素を見つける
 ② 足りない部分を補う

ということだそうです。

あまり感激したので、翌日また行ってしまいました。
そして1週間以内にもう一度。
和菓子と日本酒というものに、こんなに魅せられてしまうのが、
自分でもおかしいくらいでした。
完全につくださんの手のひらの上で転がされている私。

つくださんの創作する様々な和菓子。
でも、初体験の印象が強いせいなのでしょうか、
この白餡の羊羹が私には格別です。
汲めど尽きせぬ、このフュージョンな味の魅力。

彼女はきっと有名人になります。
つくださちこ という名前と 「薫風」 という店名を覚えておいて下さい。

根知谷の酒造家

根知谷というところへ行くのは初めてなので、
一体どんなところなのか、イメージがつかないのですが、
大糸線というローカル線の名前を聞いた途端に、
何だか雪深い、すごい田舎に出掛けて行くのだといういう気持ちになりました。

12月14日、
前日から強い寒波が日本列島を被い、
糸魚川を出発した大糸線は、
間もなく、しんしんと降る雪景色のなかに潜り込んでゆきました。
2両編成のワンマン列車の車両には、
静かに座っている地元の老人と、
ローカル線マニアとおぼしき数名の中年男性。
白一色に塗られた静かな景色は、
それは美しいものでした。

糸魚川から3つめの駅が「根知」。
雪の積もったホームにひとり降り立った私は、
「駅員屋(ぽっぽや)」の高倉 健になったような気分です。
電車を見送って無人の駅舎へ向かうと、
今日の目的地、根知谷の醸造家が、にこにこと笑って立っていました。
「まぁ、えらい天気のなか、よくお越しくださいました。」

根知谷という、東京からは距離以上に離れて感じる土地で、
これまでの酒蔵とは次元の違う酒造りをしている酒造家がいるという話は聞いていました。
自分で米を作り、酒を造る。
そこまでのことであれば、他にも、もっと大きな規模で本格的に取り組んでいる蔵元があります。
しかしこの酒造家は、それを徹底している。
つまり、「根知谷で、自分で作った米でしか造れない酒を造る」
というところまで踏み込んだ酒造りをしているというのです。

これ、言うのは簡単ですが、なかなか出来ることではありません。
本当か~?、と思うのが当然。
米の品質を、誰もが納得できるレベルで酒の味にまで実現するという作業です。
「確かにこの米で造った酒は違う」と、ガッテンしてもらえるって、凄いことです。

だから、この蔵の酒を初めて飲んだ時、正直びっくりしました。
えっ? 全然違う。
五百万石って、硬くてちょっと淡白だと思っていたのに、
ここの酒は、ねっとりとしてボディと複雑味がありました。
ここまで違えば、誰にだってわかる。
その時から、根知谷に行って、この醸造家に会うことを強く願うようになりました。

さて、この後、約半日をこの蔵元で過ごしました。
普通、蔵にお邪魔すると、
ひととおり蔵を見て、酒をきいて、お話をしてから、
近くでお昼でも食べましょうとなって、バイバイ というのがパターンです。
しかし、私は結局製造設備は見ることなく、
ひたすらこの醸造家とお話をして何時間もの時を過ごしました。
この蔵について話をしろと言われれば、結構話ができると思いますよ。
でも、あまりここでだらだらと書く気にはなれません。

ただ、根知谷にはすごい醸造家がいるぞ、ということ。
そして、彼の目指している世界は、清酒の価値を根本的に変えて、
堂々と世界に通用する酒にする可能性を持ち、
全国にいる志の高い醸造家達の未来を拓くものだと、
私は確信しました。

色々な人に伝えたい。
久しぶりに感じた思いです。



2014年7月25日金曜日

山水舎の研修会

今年は、日本酒販売に携わるプロの方々向けに、様々な研修会を始めました。
酒のプロが気軽に学べる場は、ありそうで少ない。
高いお金を払えば、確かにあるかもしれませんが、
もっと少人数で相互通行の学習の場を作りたいと思いました。

ひとつは、「日本酒セールススタッフ研修」。
消費者相手に、飲食店相手に、日本酒を販売する立場にいる方が、
知っておくべき常識と最新知識を学ぶ場です。
清酒の製造だけでなく、
もっと広い、やわらかい知恵を沢山学んで頂きたいと思っています。

もうひとつは「きき酒ワークショップ」。
目まぐるしく移り変わる商品の最先端を学ぶことと、
酒を表現するという作業を、参加者の共同で行おうというものです。
ワインに比較して、とかくボキャブラリーの乏しいと言われる清酒を、
もっと豊かに表現する訓練をしようというものです。

どちらの研修会も10名程度の少人数でやっていますが、
なかなか面白いです。
準備をするのは、それなりに大変ですが、
学ぼうという前向きな気持ちをもった方々と接することで、
エネルギーをもらうことができます。

根津のワインバー「TAMAYA」さんが、
素晴らしい研修ルームを提供して下さったので、
最高の環境で研修会をスタートすることができました。
有難いです。
是非、継続してゆきたいと願っています。

2014年7月13日日曜日

ジョン・ゴントナー と スティーブ山口

7月16日(水)にサマーセミナーを開催します。
セミナーのテーマと講師には、いつも頭を悩ませています。
自分の経験から培った見識と感受性・発想力を生かして、
業界に何かこれまでと違った視点から風を送りたいという気概を持っています。

毎回多くの蔵元・流通・その他の方々にご参加頂いていますが、
お忙しいなか、東北から沖縄まで、本当に遠方からもご参加頂いていることから、
皆様のご期待を裏切らぬよう、
素晴らしい学びとなって頂けるよう、
最後の一分まで、精一杯の気持ちを込めて運営を心がけています。
決して自信満々にやっているわけではありませんが、
講師の方々は、立派な人物ばかりです。
彼らの力を、参加者の皆様に正しくお伝えできるかどうか、
そこに私の仕事があると思っています。

参加者の皆様が、講師の方々と心を通わし、
また参加者の皆様同士が、志を共有し、
新しいネットワークを広げて頂ければ、
それが一番嬉しいことです。

さて、今回の講師はジョン・ゴントナーさんと山口スティーブさん。
ジョンさんは既に業界では有名な海外への酒の伝道師。
彼の先にも、彼の後にも
彼を超える情熱と知識を持ってこの仕事をしている人はいません。
改めて、ジョンさんが今の日本酒業界の現状と可能性をどのように見ているのか。
お聞きするのが楽しみです。

もうひとりの講師、山口スティーブさん。
彼のことを知ったのは、何年も前に見たNHKの「サキドリ」という番組でした。
山形の最上町という小さな田舎町でトラベル東北という旅行会社を経営する彼は、
保守的な田舎町のまさに「風雲児」。
外国人だからこそ見える、日本の田舎の小さな価値を掘り起こして、
新しい「旅のカタチ」をプロデュースしておられる様子を見て、
一度お会いしたいと思っていました。

何のツテもありませんでしたが、直接お手紙を書いて講演をお願いし、
快く引き受けて頂きました。

折角のチャンスですから、本当に良い話をして欲しいと願っています。
先月、東京で昼食を食べながら一度打合せをしましたが、
この週末には、1泊で山形まで行き、
1日半かけて、ゆっくりと意見の交換をしてきました。
また、彼が実際にどのような町で、どのような仕事をしているのか。
町の人達とどのような関係を持っているのか。
古川の居酒屋で酒を飲み、
鳴子温泉では、一緒に湯船に浸かって、
本当にしっかりと話をすることができました。

人はみんな同じ。
完全な人はいないし、
みんな悩みながら、手探りで生きています。
失敗もするし、批判されることもある。
成功の数以上に後悔することも沢山あります。

でも、そこで自分の生き方を貫くことができるかどうか。
そこにその人の魅力が生まれるのだと思います。
水曜日には、
様々な人生経験と試行錯誤に溢れたスティーブさんの人生と、
そんなスティーブさんから見た日本酒業界、
そして業界を楽しく発展させるアイデアを
色々とお話頂けると思います。
楽しみです。

2013年4月17日水曜日

とても良い飲み屋さんがありました

あまり特定のお店の宣伝をするのもなんなのですが、
とても良いお店だったので、
つい書いてしまいたくなりました。

吉祥寺といえば老いも若きも惹きつける街。
何と言ったって住みたい街ナンバーワンですから。
ハーモニカ横丁が有名で、
私も時々こっそりと飲みに行っております。
ただ、
あんまり注目されてくると、
何となく街の臭いが日常的でなくなってくるというか、
やや観光地化された、
作られた雰囲気を感じてしまいませんか?
まぁ、それも街のひとつの顔です。

「にほん酒や」という名の店は、
街の中心をちょっと外れた裏通りに
ちょこっとあります。
20名くらいで一杯になるくらいの店を
4名の若い男性スタッフがオペレートしています。

メニューを見て痺れましたね。
酒のメニューの出だしが
「常温か燗で美味しい酒」。
普通はメニューの8割を占める「冷酒」は、
その次にこっそりと登場します。
ややマニアックな感じのする品揃えですが、
流行に左右されないテイストが伝わります。

各テーブルには当然のように
竹炭の入った水のボトルが置いてあり、
酒を飲みながら水を飲むのは当然の顔。
ふと見回せば、
半分以上のお客様は燗酒を飲んでおられます。

「若い頃、ひどい燗酒を飲まされて、すっかり嫌いになったよ。」
という台詞を、ようやく聞かない、
知らない世代が酒を飲むようになったのですね、と
店主の高谷さんが言っておられました。
今の若い女性は、
普通にお燗酒を飲んで、
普通に「美味しい!」って言ってますよ、ですって。

こういう飲食店に出会うと、
日本酒ラブの業界人としては、
とてもとても嬉しくなります。


2013年3月27日水曜日

定番酒のブラッシュアップ

日本名門酒会の今期の企画メインテーマが、
「定番商品のブラッシュアップ」 ~今こそ定番商品を磨くとき~ です。
大きな課題に、真正面から取り組む姿勢に好感を覚えました。

今の市場の流れは、限りなく非定番化です。
毎回違うものを飲む、
何か新しいものを探す、
季節感のあるものをたのむ。
そんな市場の流れを映して、
売れる商品は、非定番の季節商品・限定商品。
これらを上手に商売に取り込めば売上は伸びるし、
これを面倒がって避けていては、
売上が伸びない。

ですから、蔵元も流通も、
「不本意ながら」
次々に市場の求める非定番商品を作っています。
かなり怪しげな「売れ残り商品」さえ、
もっともらしく限定品として販売されています。

日本酒が「季節感」や「旬」を持つのは素晴らしいことです。
「新酒」・「ひやおろし」に加えて「夏酒」がジャンルとして確立したことから、
日本酒の一年のサイクルが回るようになりました。
でも、行き過ぎは危険です。
日本酒の本流が見えなくなり、
全体的な酒質の低下に繋がる危惧さえ覚えます。

ですから、
日本名門酒会が打ち出したこの大風呂敷は、
とてもまっとうな議論でありますし、
まさに、
今、蔵元が一生懸命取り組むべき課題であると共感します。

日本名門酒会が投げかけるブラッシュアップのポイントは、
 ① フレッシュな鮮度感と軽快さ
 ② フルーティーな香り
 ③ 輪郭が明瞭でメリハリのある味わい  であり、

そのための製造上のポイントは、
上槽以降の工程と述べています。

酒質の設計は、蔵の独自性そのものです。
しかし、
「飲んでもらえば、うちの良さはわかってもらえる。」
という独りよがりが、通じる時代ではありません。
真摯に自らの酒質と向き合う姿勢が問われます。
定番酒のレベルが全体に上がることで、
日本酒業界が失うものはなにもありません。
この課題に謙虚に、真剣に向かい、
自分の酒らしい方向性が見つけられれば、
必ず道が開けると、
私は信じています。

2013年3月22日金曜日

木戸泉のAFS

ずっと気になっていた蔵元のひとつで、
初めて訪れたのは3年くらい前になります。
何が気になるかって、
AFS という酒を飲んでから、
どうしてもこの酒のことが頭から離れなかったのです。

最初飲んだのは、もう随分前のことだと思いますが、
びっくりしましたね。
良い意味でびっくりしたというよりは、
カルチャーショックを受けたという方が近いかもしれません。
これまで自分の知っている酒と、
まったく違う世界の酒でした。

とにかくすっぱい。
最初に飲んだ AFS は熟成酒でしたから、
色もチョコレート色。
「一体これは何じゃ!」
というくらい、
別世界の酒でした。

この通り、
別に良い印象を残したわけでもないのに、
何故か自分の感性に、
しっかりとインプットされてしまって、
その後、なにか特殊な酒に出会うと、
AFS のことを思い出すようになりました。

世に眠っている酒は少ないけれど、
この酒の可能性は大きい。

さて、
昨日、その木戸泉さんの藏へ行ってきました。
何故行ったかは秘密ですが。
もう造りは終わっていて、
陽気も良く、気持ちの良い一日、
荘司社長と、楽しいおしゃべりができました。

4月7日に初めての蔵開きをやるそうです。



初めてのイベントなので、
色々と準備が大変そうでした。
多分、当日は私もお手伝いをしていると思います。

是非お誘い合わせのうえご来場下さい。
大原は、空気もいいし、
漁港が近いから、魚も美味しいですよ。








2013年3月20日水曜日

盛り上げるために

確かに日本酒が好調です。
数字は右上がりを示しています。
でも、何か不安な気持ち。
本当にこのままで良いのだろうか。

今、元気がいいのは一部の蔵元、一部の流通、一部の飲食店です。
売れている商品は季節品、限定商品、新商品。
要するに、目まぐるしく目先を変えた商売をして、
消費者に、常に新しい商品を提供し続ける店が繁盛しています。
これが飲食店市場の実態。

確かに、震災のあと、
日本人の目が「東北」に向き、「Made in Japan」に向き、
日本の伝統文化としての酒に需要が流れ出しました。
この波は貴重です。
この小さな波に、しっかりと乗って、
大きな波に育ててゆかなくてはなりません。

だって、
未来に良い材料はあまり転がっていません。
アルコール消費は低下するでしょう。
社会的にもアルコールは歓迎されなくなる。
だから文化として根付かせなくては、
市場を守ることすら難しいかもしれないのです。

良い芽も沢山出ています。
新しい造り手たちです。
若い彼らの柔軟な感性から繰り出される、
新しいタイプの酒、
飲み方、スタイル。
素晴らしいな、と素直に思います。
どこかに時代の風穴が開くかもしれない。
でも、それを待っているわけにはいきません。

市場のどこに目を向けて、
どこをどのようにすることが、
将来の日本酒の市場が健全に成長するために必要なのか。
流れに身を任せていてはいけないのです。

商品と市場の接点を作る作業。
これは永遠の課題です。

私は、こう思います。
日本酒の業界は料飲店を中心としたマニア市場に目を向けすぎてきた。
メディアもそれを煽った。
だから、とても尖った先進的な市場があるにも関わらず、
一般大衆は、いつも蚊帳の外。
日本酒については、「いの字」も知らない。
たまに飲んで美味しいと思っても、
いつまでたっても身近な存在にならない。
大衆が支持しないから、
商品も売場もサービスも磨かれず、
何も動きはじめない。

私たちは、
もう一度、一般大衆をターゲットにすべきだと思います。
誰にでもわかり、手が届く世界を作って、
いつでも手に入れることができるように。
その起点は、売場だと思います。
もっと、消費者にわかりやすく、
手に届く優秀な売場を作らなくてはなりません。
数が足りない。



2013年3月18日月曜日

寺田本家のお藏フェスタ

先月に引き続いて、千葉の「五人娘」寺田本家に行ってきました。

いわゆる藏開きというイベントですが、
この藏のイベントはそんなレベルではありません。
千葉県で一番小さい町、
人口6,000人の町に、
この日は3万人もの人が訪れるのです。
考えられない集客力です。
その秘密を見つけに行ってきました。

その日は、JRも特別列車が走ります。
私は、エコツーリズムの旅行者が主催するツアーに参加。
大型バス3台が満員の盛況でした。
朝の8時前に新宿に集合、
10時に神崎の町に到着。
15時半の出発まで存分に楽しんで下さいというツアーです。

参加者の7割以上は女性。
バスの中の自己紹介では、
「天然酵母パンに興味があって」
「麹を使ったコスメに挑戦したい」
「手造り豆腐が最高に美味しいと聞いています」
など、
複数回のリピーターの話から情報収集に余念がありません。

神崎の寺田本家がある通りと鍋店(仁勇)がある通りは、
歩行者天国になっていて、
屋台が所狭しと並んでいます。
屋台といっても、夜店の屋台とは全然違うのです。
麹を使ったクッキーだとか、
酒粕から取った酵母で作ったパンだとか、
漬け物、味噌につきたての杵つき餅。
お好みの具で、その場で握ってくれるおにぎり。
様々なバリエーションの甘酒…

「発酵の里神崎」というキャッチフレーズに引き寄せられて、
全国から、自然派の変わり者たちが、
手間を惜しまずに参加しているのです。
前菜からデザート・コーヒーまで、
何でも揃っています。
この屋台だけでも充分に楽しい。

そして、
寺田本家の藏の中では、
相変わらず藏人達が満面の笑顔でお客様の接待をしていました。
「これで悪い気持ちになる人はいないよ。」
「こんなイベント、他にないもん。」
参加者から聞こえてくる声です。

ここの藏を見ていると、
酒って何なのだろうと考えさせられます。
うまい・まずい、良い出来・悪い出来、と
品質を細かく評価することが、
何となく小さなものに思えてくるのです。

それよりも、
酒って人間にとってどうして必要なんだろう。
酒を生活にどうやって生かしていけば良いのだろう。
という、そもそも論を考えてしまいます。

すべての基本は「健康」。
健全に生きるための役に立つ仕事なのだと信じることができれば、
仕事は楽しい。
楽しい仕事なら頑張れる。
そんな良い循環を、
また、思わされた一日でした。



2013年3月7日木曜日

目が離せないポイント

昨日は秋田県の酒の会がありました。
業界では、行かれた方も多くおられることでしょう。

秋田の酒には「秋田らしさ」があります。
それは伝統の中で育まれた「らしさ」なのですが、
その「秋田らしさ」が、
新しい技術のなかで進化しているのを感じます。

秋田の酒は美味しい。
「米」を食べている美味しさがあります。
ただご飯として食べる米よりも、
もっと濃縮された旨さが、
酒という形で提供されています。

米の旨さの大きなポイントは「甘さ」。
噛めば噛むほど美味しく思える米の旨さは、
「甘さ」だと思います。
秋田の酒造りの根っこには、
そんな思想を感じます。

面白い酒も沢山ありました。

最近の新しい酒を色々みて、
本当に色々あるのですが、
この数年で目を離せないポイントがいくつかあるように思います。
それは、
 ①発泡性
 ②低アルコール
 ③低精白
 ④高酸性
 ⑤甘口   です。

それぞれに、美味しい酒として実現するのには課題がありますが、
でも価値のあるトライだと思います。
先を見た蔵元は、トライしています。
5つの要素を全部持った酒があってもいいかもしれません。

きっとこの数年間で、
様々な蔵元が、
面白い酒をリリースされることでしょう。
秋田の酒の会でも、
そんな萌芽を沢山見ることができました。

Hang in there!

2013年3月6日水曜日

琵琶湖のワイン

日帰りで滋賀のワイナリーを見学してきました。
この10年は、和酒にどっぷりの日々だったので、
本気でワイナリーに向き合うのは久しぶりかもしれません。
新しい造り手に向き合うとき、
五感を研ぎ澄ます感覚って、なかなか快感です。

京都駅から小一時間、
栗東市のなだらかな丘陵に
ぶどう畑とともに立っている小さなワイナリーです。

果樹の畑、特にぶどうの畑は、
何か人の心をわくわくさせるものがあります。
今の時期は剪定を終えて、丸裸の枝しかないのに、
なだらかな丘陵に植わっている樹々を見ているだけで、
秋、ぶどうの実がたわわに実っている様子が目に浮かんで、
何だか口の中に唾液が溢れてくるような。

ワイナリーからは、そんな畑が一望できて、
とても美しい光景でした。



丘の上に建つ白亜のワイナリーは、
まるで美術館のよう。
とても贅沢な空間です。

山葡萄とカベルネソービニョンを交配して出来た
ヤマ・ソービニョンという品種の赤ワイン。
山葡萄の濃い色味と酸味がカベルネとどう調和するのかな、と
ワクワクしながら樽出しの11年産を頂きました。
色の美しさが素晴らしい。
若くて青がかった色味が特徴ですが、
濃い輝きがいかにも美味しそう。
思ったよりずっと柔らかな酸味と、
果実由来の甘みが、
とても快感に感じられました。
これなら東京でも売れそう。

他にもカベルネソービニョンの樽熟成、
マスカットベリーAの樽熟成を頂きました。

国産ワインは、
どうしても品質と価格のバランスに弱いと言われます。
真っ向勝負の気合いは必須ですが、
藏の個性を品種や造り、貯蔵などのなかで表現することが
とても大切だと思います。

しかし、
清酒や焼酎と違うこのワクワク感は一体何なのだろう。
ワインの持つ魔性?
うーむ。

2013年2月28日木曜日

酒の売り場(プロの方へのお話)

震災以降、日本酒が上昇気流に乗っています。
きっかけになったのは、幸か不幸か震災です。
震災と南部美人の久慈浩介さんの You Tube でのアピールがきっかけになって、
世間の眼が日本酒に向いた。
応援したいという気持ちが東北に、日本に、日本文化に向いたのだと思います。

何事にもきっかけが必要です。
長年の地道な努力やアピールというものが、
きっかけを与えられて初めて生きてくる。

多くの若い造り手たちの努力や向上心も、
地元を巻き込んだ様々な社会活動も、
飲食店での普及活動も、
輸出拡大の市場努力も、
新しいジャンルのトライアルも、
技術交流も、
デザイン変革のトライアルも、
・・・

きっかけを得た日本酒が支持を得たのは、
しっかりと素地を作ってきたからに他なりません。
だから、今が大切な時です。
今、しっかりと消費者を惹きつけるための活動を、
すべての場面で行ってゆく気持ちが必要です。

地酒ブーム、吟醸酒ブームと言われた時期から、
日本酒は主に飲食店と口コミ、
そして一部の雑誌類を主たる媒体にしてきました。
「こんな酒知ってるか?」
というマニアを育てるマーケティングです。

だから、とかくエクストリームに走りがち。
極端な精米歩合とか、希少性。
流通の関心も、差別的で新しい銘柄の獲得に偏ってきました。
酒が嗜好品であることから、
こうした尖ったマーケティングは仕方ありません。
でも、
これで市場が育つか、拡大してゆくかとなると、
それは別問題だと思います。

一般の消費者は、驚くほど日本酒のことを知りません。
今、日本酒が伸びているといっても、
それは本当に小さな市場の出来事なのだと知らなくてはなりません。
私たちは、
お隣との競合に勝つことにのみ心を囚われているべきではなく、
新しい日本酒ファンを一人でも作ることに熱心であるべきです。
それこそ、まさに今私たちが行うべき事だと思います。

そのことを考えると、
酒と消費者の接点を、もっと広く求める姿勢が必要です。
広くというと、今の市場ではすぐに数の論理に持ち込まれ、
CVSをはじめとしたチェーンに眼が向くのですが、
そうではありません。
ひとつひとつの個の接点の質を、もっともっと皆で高めてゆこうと言いたいのです。

これまでの地酒マーケティングは、
あまりにも飲食店・口コミ・雑誌によるマニア市場に偏ってきました。
その結果、消費者との最大の接点であるべき売り場が、
かなりないがしろにされてきたと思います。

消費者がウキウキ・ワクワクするような、
そんな楽しくてオシャレな接点を作りましょう。
それは小売店だけにできることではありません。
生産者と流通と小売店が、
消費者に改めてしっかりと向き合い、
切磋琢磨して作り上げてゆくものです。

共に考えてゆきませんか?

2013年2月26日火曜日

磨かぬ酒

若手の蔵元の切磋琢磨が目立ちます。
若いからこそできる切磋琢磨。
欲得を越えた純粋な向上心というのでしょうか。

スティーブジョブズが亡くなって、
彼のスタンフォード大学でのスピーチを聴くのが日課になっているのですが、
彼は言っています。
「偉大な事業を成し遂げる唯一の道は、その仕事を愛すること。
そして自分が愛する仕事をしている限り、前に進み続けることができる。」

彼らの後ろ姿には、酒造りに対する愛欲を感じます。

最近目立ってきた若手たちの中でも、
私は新政の佐藤祐輔さんが気になって仕方ありません。
彼が世に問うている酒には、
軸があります。
ただやみくもに新しいモノを作っているのではなく、
目標とする点が感じられます。
その点は時間とともに変化するのかもしれませんが、
でも彼は、その時のベストを尽くして、
その点へ向かっている。
そんな生き方が感じられます。

 

新政は、全量純米化、添加物ゼロの藏になりました。
それを象徴する取組みが、この「純米酒90」だと思います。
低精白の酒を造ることは誰でもできますが、
この酒には、びっくりしました。
革命的と言ってもいい。
90%の精米歩合で、こんな純米酒を造ることができたら、
業界は大きく変わるだろうと思います。

ご本人のブログによれば、
問題は安定してこの酒質を確保することのようです。
まだバラツキがあるのでしょう。
でも、
ひとつの醪でも、こんな酒ができるのだとしたら、
 未来は明るい。

磨かぬ純米酒への取組みが、
共感を呼び、
新たな切磋琢磨に繋がることは間違いないでしょう。
頑張って欲しい。
そう思います。