2015年2月10日火曜日

硬水で醸す酒

硬水・軟水といいますが、
日本は山の多い国ですから、
ほとんどの水は飲みやすい軟水です。
きれいな山の水であるほど、そのまま飲んで美味しい軟水。
田舎に行っておいしい山水を飲むと、
あぁ、日本人に生まれて良かったと、しみじみ思います。

一方で、硬水で酒を造っていますという蔵元には、
実はなかなか出会うことがありません。
もちろん、日本を代表する酒の産地である灘の宮水は硬水で知られています。
でも、それ以外は、
たまにポツポツと出会うくらいでしょう。

硬水の湧く地域というのは、
一概には言えませんが、
比較的、山と海の境目というイメージがあります。
山の水と海の水がせめぎあったところに湧き出す水。
海のミネラル分が染み込んだ水。
時に、これ塩化ナトリウムじゃないの?
と思うくらい塩辛い水に出会うこともあります。

そんな、
どちらかと言えば珍しい硬水で酒を醸す千葉県の2蔵に行ってきました。
ひとつは、いすみ市大原の木戸泉酒造。
もうひとつは、隣町の御宿にある岩の井酒造。
木戸泉は硬度8~9の中硬水、
岩の井は硬度13~15の硬水。
いずれにしても立派な硬水醸造の蔵です。
特に岩の井の水は、飲んだだけで誰にもわかる硬水です。

どちらの蔵も、
国税庁技官の古川 董(ただす)先生に技術指導を受け、
古くから熟成して美味しくなる酒を目標に酒造りをしてきました。
「兄弟蔵みたいなもんです」 と木戸泉の荘司社長はおっしゃっています。

熟成して美味しくなる酒とは、
力強い酸味が酒の外枠を形取り、
複雑味のある味わいと、ほのかな甘みのある酒。
いずれにしても、
今流行っている若く生で飲んで美味しい酒とは、
根本的に目指す酒質がちがっています。

時代に媚びない酒を造り続けるのは、
実はとても度胸がいることだと思うのです。
自分の造る酒を信じて、
どんどん売れる酒を、敢えて造らないのは、
外から見れば無神経とも言える度胸が必要です。

おおらかで感性豊かな田舎人というタイプの荘司社長と、
繊細で物静かな岩瀬社長は、
全然違う二人ですが、
おおらかさや物静かさの底に、
とても強い芯を持っておられるのでしょう。

こういう蔵の酒を味わっていると、
「酒は人なり」 と、つくづく思わされます。
日本人のハートには、
この武士のようにストイックな精神が刺さります。

硬水であれ軟水であれ、
水の味は千差万別。
でも、折角縁あって与えられた硬水の個性を、
生かし切った酒造りを続けて欲しいと願います。

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