2013年3月27日水曜日

定番酒のブラッシュアップ

日本名門酒会の今期の企画メインテーマが、
「定番商品のブラッシュアップ」 ~今こそ定番商品を磨くとき~ です。
大きな課題に、真正面から取り組む姿勢に好感を覚えました。

今の市場の流れは、限りなく非定番化です。
毎回違うものを飲む、
何か新しいものを探す、
季節感のあるものをたのむ。
そんな市場の流れを映して、
売れる商品は、非定番の季節商品・限定商品。
これらを上手に商売に取り込めば売上は伸びるし、
これを面倒がって避けていては、
売上が伸びない。

ですから、蔵元も流通も、
「不本意ながら」
次々に市場の求める非定番商品を作っています。
かなり怪しげな「売れ残り商品」さえ、
もっともらしく限定品として販売されています。

日本酒が「季節感」や「旬」を持つのは素晴らしいことです。
「新酒」・「ひやおろし」に加えて「夏酒」がジャンルとして確立したことから、
日本酒の一年のサイクルが回るようになりました。
でも、行き過ぎは危険です。
日本酒の本流が見えなくなり、
全体的な酒質の低下に繋がる危惧さえ覚えます。

ですから、
日本名門酒会が打ち出したこの大風呂敷は、
とてもまっとうな議論でありますし、
まさに、
今、蔵元が一生懸命取り組むべき課題であると共感します。

日本名門酒会が投げかけるブラッシュアップのポイントは、
 ① フレッシュな鮮度感と軽快さ
 ② フルーティーな香り
 ③ 輪郭が明瞭でメリハリのある味わい  であり、

そのための製造上のポイントは、
上槽以降の工程と述べています。

酒質の設計は、蔵の独自性そのものです。
しかし、
「飲んでもらえば、うちの良さはわかってもらえる。」
という独りよがりが、通じる時代ではありません。
真摯に自らの酒質と向き合う姿勢が問われます。
定番酒のレベルが全体に上がることで、
日本酒業界が失うものはなにもありません。
この課題に謙虚に、真剣に向かい、
自分の酒らしい方向性が見つけられれば、
必ず道が開けると、
私は信じています。

2013年3月22日金曜日

木戸泉のAFS

ずっと気になっていた蔵元のひとつで、
初めて訪れたのは3年くらい前になります。
何が気になるかって、
AFS という酒を飲んでから、
どうしてもこの酒のことが頭から離れなかったのです。

最初飲んだのは、もう随分前のことだと思いますが、
びっくりしましたね。
良い意味でびっくりしたというよりは、
カルチャーショックを受けたという方が近いかもしれません。
これまで自分の知っている酒と、
まったく違う世界の酒でした。

とにかくすっぱい。
最初に飲んだ AFS は熟成酒でしたから、
色もチョコレート色。
「一体これは何じゃ!」
というくらい、
別世界の酒でした。

この通り、
別に良い印象を残したわけでもないのに、
何故か自分の感性に、
しっかりとインプットされてしまって、
その後、なにか特殊な酒に出会うと、
AFS のことを思い出すようになりました。

世に眠っている酒は少ないけれど、
この酒の可能性は大きい。

さて、
昨日、その木戸泉さんの藏へ行ってきました。
何故行ったかは秘密ですが。
もう造りは終わっていて、
陽気も良く、気持ちの良い一日、
荘司社長と、楽しいおしゃべりができました。

4月7日に初めての蔵開きをやるそうです。



初めてのイベントなので、
色々と準備が大変そうでした。
多分、当日は私もお手伝いをしていると思います。

是非お誘い合わせのうえご来場下さい。
大原は、空気もいいし、
漁港が近いから、魚も美味しいですよ。








2013年3月20日水曜日

盛り上げるために

確かに日本酒が好調です。
数字は右上がりを示しています。
でも、何か不安な気持ち。
本当にこのままで良いのだろうか。

今、元気がいいのは一部の蔵元、一部の流通、一部の飲食店です。
売れている商品は季節品、限定商品、新商品。
要するに、目まぐるしく目先を変えた商売をして、
消費者に、常に新しい商品を提供し続ける店が繁盛しています。
これが飲食店市場の実態。

確かに、震災のあと、
日本人の目が「東北」に向き、「Made in Japan」に向き、
日本の伝統文化としての酒に需要が流れ出しました。
この波は貴重です。
この小さな波に、しっかりと乗って、
大きな波に育ててゆかなくてはなりません。

だって、
未来に良い材料はあまり転がっていません。
アルコール消費は低下するでしょう。
社会的にもアルコールは歓迎されなくなる。
だから文化として根付かせなくては、
市場を守ることすら難しいかもしれないのです。

良い芽も沢山出ています。
新しい造り手たちです。
若い彼らの柔軟な感性から繰り出される、
新しいタイプの酒、
飲み方、スタイル。
素晴らしいな、と素直に思います。
どこかに時代の風穴が開くかもしれない。
でも、それを待っているわけにはいきません。

市場のどこに目を向けて、
どこをどのようにすることが、
将来の日本酒の市場が健全に成長するために必要なのか。
流れに身を任せていてはいけないのです。

商品と市場の接点を作る作業。
これは永遠の課題です。

私は、こう思います。
日本酒の業界は料飲店を中心としたマニア市場に目を向けすぎてきた。
メディアもそれを煽った。
だから、とても尖った先進的な市場があるにも関わらず、
一般大衆は、いつも蚊帳の外。
日本酒については、「いの字」も知らない。
たまに飲んで美味しいと思っても、
いつまでたっても身近な存在にならない。
大衆が支持しないから、
商品も売場もサービスも磨かれず、
何も動きはじめない。

私たちは、
もう一度、一般大衆をターゲットにすべきだと思います。
誰にでもわかり、手が届く世界を作って、
いつでも手に入れることができるように。
その起点は、売場だと思います。
もっと、消費者にわかりやすく、
手に届く優秀な売場を作らなくてはなりません。
数が足りない。



2013年3月18日月曜日

寺田本家のお藏フェスタ

先月に引き続いて、千葉の「五人娘」寺田本家に行ってきました。

いわゆる藏開きというイベントですが、
この藏のイベントはそんなレベルではありません。
千葉県で一番小さい町、
人口6,000人の町に、
この日は3万人もの人が訪れるのです。
考えられない集客力です。
その秘密を見つけに行ってきました。

その日は、JRも特別列車が走ります。
私は、エコツーリズムの旅行者が主催するツアーに参加。
大型バス3台が満員の盛況でした。
朝の8時前に新宿に集合、
10時に神崎の町に到着。
15時半の出発まで存分に楽しんで下さいというツアーです。

参加者の7割以上は女性。
バスの中の自己紹介では、
「天然酵母パンに興味があって」
「麹を使ったコスメに挑戦したい」
「手造り豆腐が最高に美味しいと聞いています」
など、
複数回のリピーターの話から情報収集に余念がありません。

神崎の寺田本家がある通りと鍋店(仁勇)がある通りは、
歩行者天国になっていて、
屋台が所狭しと並んでいます。
屋台といっても、夜店の屋台とは全然違うのです。
麹を使ったクッキーだとか、
酒粕から取った酵母で作ったパンだとか、
漬け物、味噌につきたての杵つき餅。
お好みの具で、その場で握ってくれるおにぎり。
様々なバリエーションの甘酒…

「発酵の里神崎」というキャッチフレーズに引き寄せられて、
全国から、自然派の変わり者たちが、
手間を惜しまずに参加しているのです。
前菜からデザート・コーヒーまで、
何でも揃っています。
この屋台だけでも充分に楽しい。

そして、
寺田本家の藏の中では、
相変わらず藏人達が満面の笑顔でお客様の接待をしていました。
「これで悪い気持ちになる人はいないよ。」
「こんなイベント、他にないもん。」
参加者から聞こえてくる声です。

ここの藏を見ていると、
酒って何なのだろうと考えさせられます。
うまい・まずい、良い出来・悪い出来、と
品質を細かく評価することが、
何となく小さなものに思えてくるのです。

それよりも、
酒って人間にとってどうして必要なんだろう。
酒を生活にどうやって生かしていけば良いのだろう。
という、そもそも論を考えてしまいます。

すべての基本は「健康」。
健全に生きるための役に立つ仕事なのだと信じることができれば、
仕事は楽しい。
楽しい仕事なら頑張れる。
そんな良い循環を、
また、思わされた一日でした。



2013年3月7日木曜日

目が離せないポイント

昨日は秋田県の酒の会がありました。
業界では、行かれた方も多くおられることでしょう。

秋田の酒には「秋田らしさ」があります。
それは伝統の中で育まれた「らしさ」なのですが、
その「秋田らしさ」が、
新しい技術のなかで進化しているのを感じます。

秋田の酒は美味しい。
「米」を食べている美味しさがあります。
ただご飯として食べる米よりも、
もっと濃縮された旨さが、
酒という形で提供されています。

米の旨さの大きなポイントは「甘さ」。
噛めば噛むほど美味しく思える米の旨さは、
「甘さ」だと思います。
秋田の酒造りの根っこには、
そんな思想を感じます。

面白い酒も沢山ありました。

最近の新しい酒を色々みて、
本当に色々あるのですが、
この数年で目を離せないポイントがいくつかあるように思います。
それは、
 ①発泡性
 ②低アルコール
 ③低精白
 ④高酸性
 ⑤甘口   です。

それぞれに、美味しい酒として実現するのには課題がありますが、
でも価値のあるトライだと思います。
先を見た蔵元は、トライしています。
5つの要素を全部持った酒があってもいいかもしれません。

きっとこの数年間で、
様々な蔵元が、
面白い酒をリリースされることでしょう。
秋田の酒の会でも、
そんな萌芽を沢山見ることができました。

Hang in there!

2013年3月6日水曜日

琵琶湖のワイン

日帰りで滋賀のワイナリーを見学してきました。
この10年は、和酒にどっぷりの日々だったので、
本気でワイナリーに向き合うのは久しぶりかもしれません。
新しい造り手に向き合うとき、
五感を研ぎ澄ます感覚って、なかなか快感です。

京都駅から小一時間、
栗東市のなだらかな丘陵に
ぶどう畑とともに立っている小さなワイナリーです。

果樹の畑、特にぶどうの畑は、
何か人の心をわくわくさせるものがあります。
今の時期は剪定を終えて、丸裸の枝しかないのに、
なだらかな丘陵に植わっている樹々を見ているだけで、
秋、ぶどうの実がたわわに実っている様子が目に浮かんで、
何だか口の中に唾液が溢れてくるような。

ワイナリーからは、そんな畑が一望できて、
とても美しい光景でした。



丘の上に建つ白亜のワイナリーは、
まるで美術館のよう。
とても贅沢な空間です。

山葡萄とカベルネソービニョンを交配して出来た
ヤマ・ソービニョンという品種の赤ワイン。
山葡萄の濃い色味と酸味がカベルネとどう調和するのかな、と
ワクワクしながら樽出しの11年産を頂きました。
色の美しさが素晴らしい。
若くて青がかった色味が特徴ですが、
濃い輝きがいかにも美味しそう。
思ったよりずっと柔らかな酸味と、
果実由来の甘みが、
とても快感に感じられました。
これなら東京でも売れそう。

他にもカベルネソービニョンの樽熟成、
マスカットベリーAの樽熟成を頂きました。

国産ワインは、
どうしても品質と価格のバランスに弱いと言われます。
真っ向勝負の気合いは必須ですが、
藏の個性を品種や造り、貯蔵などのなかで表現することが
とても大切だと思います。

しかし、
清酒や焼酎と違うこのワクワク感は一体何なのだろう。
ワインの持つ魔性?
うーむ。