2013年4月17日水曜日

とても良い飲み屋さんがありました

あまり特定のお店の宣伝をするのもなんなのですが、
とても良いお店だったので、
つい書いてしまいたくなりました。

吉祥寺といえば老いも若きも惹きつける街。
何と言ったって住みたい街ナンバーワンですから。
ハーモニカ横丁が有名で、
私も時々こっそりと飲みに行っております。
ただ、
あんまり注目されてくると、
何となく街の臭いが日常的でなくなってくるというか、
やや観光地化された、
作られた雰囲気を感じてしまいませんか?
まぁ、それも街のひとつの顔です。

「にほん酒や」という名の店は、
街の中心をちょっと外れた裏通りに
ちょこっとあります。
20名くらいで一杯になるくらいの店を
4名の若い男性スタッフがオペレートしています。

メニューを見て痺れましたね。
酒のメニューの出だしが
「常温か燗で美味しい酒」。
普通はメニューの8割を占める「冷酒」は、
その次にこっそりと登場します。
ややマニアックな感じのする品揃えですが、
流行に左右されないテイストが伝わります。

各テーブルには当然のように
竹炭の入った水のボトルが置いてあり、
酒を飲みながら水を飲むのは当然の顔。
ふと見回せば、
半分以上のお客様は燗酒を飲んでおられます。

「若い頃、ひどい燗酒を飲まされて、すっかり嫌いになったよ。」
という台詞を、ようやく聞かない、
知らない世代が酒を飲むようになったのですね、と
店主の高谷さんが言っておられました。
今の若い女性は、
普通にお燗酒を飲んで、
普通に「美味しい!」って言ってますよ、ですって。

こういう飲食店に出会うと、
日本酒ラブの業界人としては、
とてもとても嬉しくなります。


2013年3月27日水曜日

定番酒のブラッシュアップ

日本名門酒会の今期の企画メインテーマが、
「定番商品のブラッシュアップ」 ~今こそ定番商品を磨くとき~ です。
大きな課題に、真正面から取り組む姿勢に好感を覚えました。

今の市場の流れは、限りなく非定番化です。
毎回違うものを飲む、
何か新しいものを探す、
季節感のあるものをたのむ。
そんな市場の流れを映して、
売れる商品は、非定番の季節商品・限定商品。
これらを上手に商売に取り込めば売上は伸びるし、
これを面倒がって避けていては、
売上が伸びない。

ですから、蔵元も流通も、
「不本意ながら」
次々に市場の求める非定番商品を作っています。
かなり怪しげな「売れ残り商品」さえ、
もっともらしく限定品として販売されています。

日本酒が「季節感」や「旬」を持つのは素晴らしいことです。
「新酒」・「ひやおろし」に加えて「夏酒」がジャンルとして確立したことから、
日本酒の一年のサイクルが回るようになりました。
でも、行き過ぎは危険です。
日本酒の本流が見えなくなり、
全体的な酒質の低下に繋がる危惧さえ覚えます。

ですから、
日本名門酒会が打ち出したこの大風呂敷は、
とてもまっとうな議論でありますし、
まさに、
今、蔵元が一生懸命取り組むべき課題であると共感します。

日本名門酒会が投げかけるブラッシュアップのポイントは、
 ① フレッシュな鮮度感と軽快さ
 ② フルーティーな香り
 ③ 輪郭が明瞭でメリハリのある味わい  であり、

そのための製造上のポイントは、
上槽以降の工程と述べています。

酒質の設計は、蔵の独自性そのものです。
しかし、
「飲んでもらえば、うちの良さはわかってもらえる。」
という独りよがりが、通じる時代ではありません。
真摯に自らの酒質と向き合う姿勢が問われます。
定番酒のレベルが全体に上がることで、
日本酒業界が失うものはなにもありません。
この課題に謙虚に、真剣に向かい、
自分の酒らしい方向性が見つけられれば、
必ず道が開けると、
私は信じています。

2013年3月22日金曜日

木戸泉のAFS

ずっと気になっていた蔵元のひとつで、
初めて訪れたのは3年くらい前になります。
何が気になるかって、
AFS という酒を飲んでから、
どうしてもこの酒のことが頭から離れなかったのです。

最初飲んだのは、もう随分前のことだと思いますが、
びっくりしましたね。
良い意味でびっくりしたというよりは、
カルチャーショックを受けたという方が近いかもしれません。
これまで自分の知っている酒と、
まったく違う世界の酒でした。

とにかくすっぱい。
最初に飲んだ AFS は熟成酒でしたから、
色もチョコレート色。
「一体これは何じゃ!」
というくらい、
別世界の酒でした。

この通り、
別に良い印象を残したわけでもないのに、
何故か自分の感性に、
しっかりとインプットされてしまって、
その後、なにか特殊な酒に出会うと、
AFS のことを思い出すようになりました。

世に眠っている酒は少ないけれど、
この酒の可能性は大きい。

さて、
昨日、その木戸泉さんの藏へ行ってきました。
何故行ったかは秘密ですが。
もう造りは終わっていて、
陽気も良く、気持ちの良い一日、
荘司社長と、楽しいおしゃべりができました。

4月7日に初めての蔵開きをやるそうです。



初めてのイベントなので、
色々と準備が大変そうでした。
多分、当日は私もお手伝いをしていると思います。

是非お誘い合わせのうえご来場下さい。
大原は、空気もいいし、
漁港が近いから、魚も美味しいですよ。








2013年3月20日水曜日

盛り上げるために

確かに日本酒が好調です。
数字は右上がりを示しています。
でも、何か不安な気持ち。
本当にこのままで良いのだろうか。

今、元気がいいのは一部の蔵元、一部の流通、一部の飲食店です。
売れている商品は季節品、限定商品、新商品。
要するに、目まぐるしく目先を変えた商売をして、
消費者に、常に新しい商品を提供し続ける店が繁盛しています。
これが飲食店市場の実態。

確かに、震災のあと、
日本人の目が「東北」に向き、「Made in Japan」に向き、
日本の伝統文化としての酒に需要が流れ出しました。
この波は貴重です。
この小さな波に、しっかりと乗って、
大きな波に育ててゆかなくてはなりません。

だって、
未来に良い材料はあまり転がっていません。
アルコール消費は低下するでしょう。
社会的にもアルコールは歓迎されなくなる。
だから文化として根付かせなくては、
市場を守ることすら難しいかもしれないのです。

良い芽も沢山出ています。
新しい造り手たちです。
若い彼らの柔軟な感性から繰り出される、
新しいタイプの酒、
飲み方、スタイル。
素晴らしいな、と素直に思います。
どこかに時代の風穴が開くかもしれない。
でも、それを待っているわけにはいきません。

市場のどこに目を向けて、
どこをどのようにすることが、
将来の日本酒の市場が健全に成長するために必要なのか。
流れに身を任せていてはいけないのです。

商品と市場の接点を作る作業。
これは永遠の課題です。

私は、こう思います。
日本酒の業界は料飲店を中心としたマニア市場に目を向けすぎてきた。
メディアもそれを煽った。
だから、とても尖った先進的な市場があるにも関わらず、
一般大衆は、いつも蚊帳の外。
日本酒については、「いの字」も知らない。
たまに飲んで美味しいと思っても、
いつまでたっても身近な存在にならない。
大衆が支持しないから、
商品も売場もサービスも磨かれず、
何も動きはじめない。

私たちは、
もう一度、一般大衆をターゲットにすべきだと思います。
誰にでもわかり、手が届く世界を作って、
いつでも手に入れることができるように。
その起点は、売場だと思います。
もっと、消費者にわかりやすく、
手に届く優秀な売場を作らなくてはなりません。
数が足りない。



2013年3月18日月曜日

寺田本家のお藏フェスタ

先月に引き続いて、千葉の「五人娘」寺田本家に行ってきました。

いわゆる藏開きというイベントですが、
この藏のイベントはそんなレベルではありません。
千葉県で一番小さい町、
人口6,000人の町に、
この日は3万人もの人が訪れるのです。
考えられない集客力です。
その秘密を見つけに行ってきました。

その日は、JRも特別列車が走ります。
私は、エコツーリズムの旅行者が主催するツアーに参加。
大型バス3台が満員の盛況でした。
朝の8時前に新宿に集合、
10時に神崎の町に到着。
15時半の出発まで存分に楽しんで下さいというツアーです。

参加者の7割以上は女性。
バスの中の自己紹介では、
「天然酵母パンに興味があって」
「麹を使ったコスメに挑戦したい」
「手造り豆腐が最高に美味しいと聞いています」
など、
複数回のリピーターの話から情報収集に余念がありません。

神崎の寺田本家がある通りと鍋店(仁勇)がある通りは、
歩行者天国になっていて、
屋台が所狭しと並んでいます。
屋台といっても、夜店の屋台とは全然違うのです。
麹を使ったクッキーだとか、
酒粕から取った酵母で作ったパンだとか、
漬け物、味噌につきたての杵つき餅。
お好みの具で、その場で握ってくれるおにぎり。
様々なバリエーションの甘酒…

「発酵の里神崎」というキャッチフレーズに引き寄せられて、
全国から、自然派の変わり者たちが、
手間を惜しまずに参加しているのです。
前菜からデザート・コーヒーまで、
何でも揃っています。
この屋台だけでも充分に楽しい。

そして、
寺田本家の藏の中では、
相変わらず藏人達が満面の笑顔でお客様の接待をしていました。
「これで悪い気持ちになる人はいないよ。」
「こんなイベント、他にないもん。」
参加者から聞こえてくる声です。

ここの藏を見ていると、
酒って何なのだろうと考えさせられます。
うまい・まずい、良い出来・悪い出来、と
品質を細かく評価することが、
何となく小さなものに思えてくるのです。

それよりも、
酒って人間にとってどうして必要なんだろう。
酒を生活にどうやって生かしていけば良いのだろう。
という、そもそも論を考えてしまいます。

すべての基本は「健康」。
健全に生きるための役に立つ仕事なのだと信じることができれば、
仕事は楽しい。
楽しい仕事なら頑張れる。
そんな良い循環を、
また、思わされた一日でした。



2013年3月7日木曜日

目が離せないポイント

昨日は秋田県の酒の会がありました。
業界では、行かれた方も多くおられることでしょう。

秋田の酒には「秋田らしさ」があります。
それは伝統の中で育まれた「らしさ」なのですが、
その「秋田らしさ」が、
新しい技術のなかで進化しているのを感じます。

秋田の酒は美味しい。
「米」を食べている美味しさがあります。
ただご飯として食べる米よりも、
もっと濃縮された旨さが、
酒という形で提供されています。

米の旨さの大きなポイントは「甘さ」。
噛めば噛むほど美味しく思える米の旨さは、
「甘さ」だと思います。
秋田の酒造りの根っこには、
そんな思想を感じます。

面白い酒も沢山ありました。

最近の新しい酒を色々みて、
本当に色々あるのですが、
この数年で目を離せないポイントがいくつかあるように思います。
それは、
 ①発泡性
 ②低アルコール
 ③低精白
 ④高酸性
 ⑤甘口   です。

それぞれに、美味しい酒として実現するのには課題がありますが、
でも価値のあるトライだと思います。
先を見た蔵元は、トライしています。
5つの要素を全部持った酒があってもいいかもしれません。

きっとこの数年間で、
様々な蔵元が、
面白い酒をリリースされることでしょう。
秋田の酒の会でも、
そんな萌芽を沢山見ることができました。

Hang in there!

2013年3月6日水曜日

琵琶湖のワイン

日帰りで滋賀のワイナリーを見学してきました。
この10年は、和酒にどっぷりの日々だったので、
本気でワイナリーに向き合うのは久しぶりかもしれません。
新しい造り手に向き合うとき、
五感を研ぎ澄ます感覚って、なかなか快感です。

京都駅から小一時間、
栗東市のなだらかな丘陵に
ぶどう畑とともに立っている小さなワイナリーです。

果樹の畑、特にぶどうの畑は、
何か人の心をわくわくさせるものがあります。
今の時期は剪定を終えて、丸裸の枝しかないのに、
なだらかな丘陵に植わっている樹々を見ているだけで、
秋、ぶどうの実がたわわに実っている様子が目に浮かんで、
何だか口の中に唾液が溢れてくるような。

ワイナリーからは、そんな畑が一望できて、
とても美しい光景でした。



丘の上に建つ白亜のワイナリーは、
まるで美術館のよう。
とても贅沢な空間です。

山葡萄とカベルネソービニョンを交配して出来た
ヤマ・ソービニョンという品種の赤ワイン。
山葡萄の濃い色味と酸味がカベルネとどう調和するのかな、と
ワクワクしながら樽出しの11年産を頂きました。
色の美しさが素晴らしい。
若くて青がかった色味が特徴ですが、
濃い輝きがいかにも美味しそう。
思ったよりずっと柔らかな酸味と、
果実由来の甘みが、
とても快感に感じられました。
これなら東京でも売れそう。

他にもカベルネソービニョンの樽熟成、
マスカットベリーAの樽熟成を頂きました。

国産ワインは、
どうしても品質と価格のバランスに弱いと言われます。
真っ向勝負の気合いは必須ですが、
藏の個性を品種や造り、貯蔵などのなかで表現することが
とても大切だと思います。

しかし、
清酒や焼酎と違うこのワクワク感は一体何なのだろう。
ワインの持つ魔性?
うーむ。

2013年2月28日木曜日

酒の売り場(プロの方へのお話)

震災以降、日本酒が上昇気流に乗っています。
きっかけになったのは、幸か不幸か震災です。
震災と南部美人の久慈浩介さんの You Tube でのアピールがきっかけになって、
世間の眼が日本酒に向いた。
応援したいという気持ちが東北に、日本に、日本文化に向いたのだと思います。

何事にもきっかけが必要です。
長年の地道な努力やアピールというものが、
きっかけを与えられて初めて生きてくる。

多くの若い造り手たちの努力や向上心も、
地元を巻き込んだ様々な社会活動も、
飲食店での普及活動も、
輸出拡大の市場努力も、
新しいジャンルのトライアルも、
技術交流も、
デザイン変革のトライアルも、
・・・

きっかけを得た日本酒が支持を得たのは、
しっかりと素地を作ってきたからに他なりません。
だから、今が大切な時です。
今、しっかりと消費者を惹きつけるための活動を、
すべての場面で行ってゆく気持ちが必要です。

地酒ブーム、吟醸酒ブームと言われた時期から、
日本酒は主に飲食店と口コミ、
そして一部の雑誌類を主たる媒体にしてきました。
「こんな酒知ってるか?」
というマニアを育てるマーケティングです。

だから、とかくエクストリームに走りがち。
極端な精米歩合とか、希少性。
流通の関心も、差別的で新しい銘柄の獲得に偏ってきました。
酒が嗜好品であることから、
こうした尖ったマーケティングは仕方ありません。
でも、
これで市場が育つか、拡大してゆくかとなると、
それは別問題だと思います。

一般の消費者は、驚くほど日本酒のことを知りません。
今、日本酒が伸びているといっても、
それは本当に小さな市場の出来事なのだと知らなくてはなりません。
私たちは、
お隣との競合に勝つことにのみ心を囚われているべきではなく、
新しい日本酒ファンを一人でも作ることに熱心であるべきです。
それこそ、まさに今私たちが行うべき事だと思います。

そのことを考えると、
酒と消費者の接点を、もっと広く求める姿勢が必要です。
広くというと、今の市場ではすぐに数の論理に持ち込まれ、
CVSをはじめとしたチェーンに眼が向くのですが、
そうではありません。
ひとつひとつの個の接点の質を、もっともっと皆で高めてゆこうと言いたいのです。

これまでの地酒マーケティングは、
あまりにも飲食店・口コミ・雑誌によるマニア市場に偏ってきました。
その結果、消費者との最大の接点であるべき売り場が、
かなりないがしろにされてきたと思います。

消費者がウキウキ・ワクワクするような、
そんな楽しくてオシャレな接点を作りましょう。
それは小売店だけにできることではありません。
生産者と流通と小売店が、
消費者に改めてしっかりと向き合い、
切磋琢磨して作り上げてゆくものです。

共に考えてゆきませんか?

2013年2月26日火曜日

磨かぬ酒

若手の蔵元の切磋琢磨が目立ちます。
若いからこそできる切磋琢磨。
欲得を越えた純粋な向上心というのでしょうか。

スティーブジョブズが亡くなって、
彼のスタンフォード大学でのスピーチを聴くのが日課になっているのですが、
彼は言っています。
「偉大な事業を成し遂げる唯一の道は、その仕事を愛すること。
そして自分が愛する仕事をしている限り、前に進み続けることができる。」

彼らの後ろ姿には、酒造りに対する愛欲を感じます。

最近目立ってきた若手たちの中でも、
私は新政の佐藤祐輔さんが気になって仕方ありません。
彼が世に問うている酒には、
軸があります。
ただやみくもに新しいモノを作っているのではなく、
目標とする点が感じられます。
その点は時間とともに変化するのかもしれませんが、
でも彼は、その時のベストを尽くして、
その点へ向かっている。
そんな生き方が感じられます。

 

新政は、全量純米化、添加物ゼロの藏になりました。
それを象徴する取組みが、この「純米酒90」だと思います。
低精白の酒を造ることは誰でもできますが、
この酒には、びっくりしました。
革命的と言ってもいい。
90%の精米歩合で、こんな純米酒を造ることができたら、
業界は大きく変わるだろうと思います。

ご本人のブログによれば、
問題は安定してこの酒質を確保することのようです。
まだバラツキがあるのでしょう。
でも、
ひとつの醪でも、こんな酒ができるのだとしたら、
 未来は明るい。

磨かぬ純米酒への取組みが、
共感を呼び、
新たな切磋琢磨に繋がることは間違いないでしょう。
頑張って欲しい。
そう思います。

2013年2月24日日曜日

寺田本家の酒造り

「五人娘」の寺田本家を訪ねました。
下総神崎に行くのは、先月の「全国発酵食品サミット」につづいて2回目。
千葉といっても、
阿佐ヶ谷からは2時間半以上かかります。
でも、どうしても一度見ておきたい藏でした。

寺田本家は、自然派の蔵元としてはカリスマ的な存在で、
マクロビ、天然酵母食品、発酵食品など、
あらゆる自然派のライフスタイルを指向する消費層に、
圧倒的な支持を集める蔵元です。

自然派のイメージって、
とてもオシャレなのですが、
少々頭でっかちで、頑固で、排他的といった
ややマイナスなイメージもあります。
だから、
私は酒もさることながら、
人に興味がありました。
一体どんな人が集まっているのだろう。
どんな人が酒を造っているのだろう、と。

いや、驚きました。
それに、感銘を受けました。
軸を持った生き方をしているというのはこういうことなのでしょうか。
自然のなかで細菌の働く場を整えて、
元気に発酵してもらう。
同じ細菌の働きでも、「腐敗」でなく「発酵」に向かうよう、
すべてを整えるという軸です。

自然派食品というと、
無農薬・無化学肥料の農産物を中心としたイメージが強いですが、
この蔵元の軸は、もっと深いところにありました。
「発酵」が原点です。
自然な「発酵」こそ元気の源であり、
その働きを高めるために、
何の原料を、どのように用いるのか。
そこにすべての判断基準を持っています。

この観点から酒造りを見直すと、
最後は、その人の「生き方」に繋がってきます。
酒を造り、酒を飲んで貰うというプロセスは、
その人がどう生きるか、
その証であるように思えてきます。



「むすひ」という発芽玄米の酒を買って帰りました。
この酒は薄にごった黄金色をしています。
火落ち菌が検出されるといいます。
でも腐ってはいません。
この酒に寺田本家の究極があると思いました。
ここまで徹底すれば、
確かに身体に良いのではないかと、
誰でも思えてくると思います。

私をそのような気持ちにしてくれたのは、
藏人・社員さんたちの顔でした。
みんな、素晴らしくいい顔をしていました。
あんな素敵な笑顔に迎えられ、見送られたら、
誰でも気持ち良くならないわけがありません。

2013年2月21日木曜日

藤巻幸大さんの話

「カリスマバイヤー」として有名な藤巻幸大さんにセミナーの講師をお願いしました。
彼は伊勢丹をスタートとして、
主にファッションの業界で生きてこられた方ですが、
その後、その仕事ぶりと人間性を認められて、
福助の再建を任されたり、
セブン・アンド・アイの鈴木敏文さんの下で、
イトーヨーカ堂の衣料品部門の立て直しを任されたりされました。
その後、独立されてからは、
衣食住の様々な分野で、
縦横無尽の活躍をされており、
Web 上で100アイテム程度に絞り込んだ商品販売を行う「藤巻百貨店」は、
スタート一年足らずで、
すでに月間3千万円を越える売上をたたき出していると言います。




常に現場の第一線にいる感覚を失わない藤巻さんだからこそ、
生きる言葉があると思いました。

特に、酒の業界はおっとりしているので、
藤巻さんの持つスピード感も
大きな刺激になるのではないかと思いました。

テーマは、ずばり 「ブランディング」。
商品が売れるためのプロセスを、
藤巻さんの経験をもとに語ってもらいました。

内容を要約するのは困難ですが、
すべての解は
 ・モノ作り
 ・売り方
この2つに集約されるわけで、
そこに、徹底的に集中することしかないということでしょう。
但し、
現代の顧客の関心がどこにあるか、
顧客の心理と感性を掴むポイントがあるわけで、
そのポイントの順序を間違えてはいけないというのが肝かもしれません。

とても刺激的なお話でした。

2013年2月19日火曜日

貴醸酒がおもしろい!

貴醸酒とは、仕込みの一部に水の替わりに酒を使った、
一般に濃醇で甘い酒です。
昭和48年から造られてきた製法で、
それほど伝統的な製法とは言えません。
業界の人間でも、
聞いたことはあるけど、あまり口にする機会はありません。
それだけ、造っている蔵元が少ないということですね。
貴醸酒協会という団体があって、
そこに加盟していないと貴醸酒という名をつけることができないという事情もあるかもしれません。
ですから、
貴醸酒とは名付けていないけど、
貴醸酒の製法で造られた酒はあります。

いずれにしても、
決してメジャーな酒ではなかったし、
売れているという噂も、
あまり聞いたことがない。
ごく一部、マニアックな古酒として
世に出ている程度の酒です。

でも、私としては
にわかに注目度が高いジャンルになっています。
昨日ご紹介した滋賀の「笑四季」が、
マニア向けでない、
他の酒と同様に、
普通に飲めるジャンルの酒として世に出しました。
これは日本酒であって、日本酒でない、べんべん。

もうひとつ、
広島の「華鳩」という蔵元が
とてもユニークで美味しい貴醸酒を出しています。

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オーク樽に貯蔵した貴醸酒で、
酒の甘さとボディと芳醇ななめらかさに、
オーク樽の香りが実にマッチしています。
こういう生かし方があるのかと、
目からウロコの酒でした。

少し前までは、
甘口の酒が好き、なんて言えない雰囲気がありましたが、
今は、全然恥ずかしくありませんね。
それに、甘さは誰が味わっても、美味しい。

きっとこれから、
面白い貴醸酒がたくさん出て来るぞと、
私は密かに注目しています。

2013年2月18日月曜日

新しい流れの予感

最近は、デザインも品質も面白くなりました。

日本人の感性は棄てたもんじゃないというのは、
伝統芸術の素晴らしさを見れば一目瞭然なのですが、
なかなか目の当たりにすることは少ないので、
忘れかけていたのかもしれません。

最近、歌舞伎の重鎮が続けて二人亡くなりました。
歌舞伎を初めて見たのは、
ずっと大人になってからのことなのですが、
これはショックだったなぁ。
江戸の「粋」が詰まった、
すごいのひと言では言い尽くせぬ、
素晴らしい大衆芸能だと、
本当に感激しました。

歌舞伎に限らず、
絵画にせよ、華道・茶道にせよ、
料理にせよ、工芸品にせよ、
落語にせよ、浄瑠璃にせよ…

日本の伝統文化は、素晴らしい。

でも、伝統を担う人々が、
必ず口を揃えて言うのは、
「伝統とは変わること」
「伝統とは革新だ」
という台詞です。
変化こそが、不変の形を作ってゆく。
この逆説は、
でも、誰の腑にも落ちますね。

日本酒にも、
最近、大きな変化の波が押し寄せています。
若手を中心に、
どんどん新しいチャレンジが、確実に世の中を変えています。

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昨年とても驚いたこの酒は、
貴醸酒をアレンジしたのです。
La Mousson というネーミングからして、イカしてます。
こういう良い刺激が、
必ず次の革新を呼ぶに違いない。
飲んでびっくりし、
俺なら、もっとこうしたい…
と、思う人は、必ず沢山いるはずです。

私は、素晴らしいと思いました。
是非、頑張って欲しいですね。


















2013年2月15日金曜日

ドライな白ワインのような酒

清酒に携わってきた人たちは、
ほとんど思ってきたことでしょう。
「なんで日本酒って、ワインほどオシャレになれないんだろう?」

こんなに一生懸命なのに、
こんなに高い醸造技術で造っているのに。
できた酒をオシャレに飲んでもらえない。

多分、この問題は結構奥が深くて、
色んな要素が変化し、
様々な出来事が起こる必要があるのだろうと思います。
今、それを論ずるつもりもないし、答えを知っているわけでもありません。
でも、
これだけプライドを持って、頑張って造っているのだから、
必ずオシャレに飲んでもらえるようにするぞ、
という強い気持ちを持った人たちがいれば、
いつか遠くない日に、
とてつもなくオシャレな日本酒が出て来るに違いないと
私は信じています。

日常生活に、ワインは随分溶け込んできました。
例えば、こんなシーンが想像できます。
天気の良い昼下がり、
早めに仕事から帰ってきた女性が、
冷蔵庫から良く冷えた飲みかけの白ワインボトルを取り出し、
ワイングラスに注いでキッチンカウンターに置く。
郵便物をチェックしたり、
雑誌をめくったりしながら、ひとくち飲む。

ごく自然だし、都会的な風景ですよね。
「アニーホール」でダイアンキートンとウディアレンが演じた昼下がりのシーンに重なります。

日本酒も、こんな飲まれ方をして欲しいなと思います。
そのためには、
とかくもっちりとした味わいや
麹くさい香りは、あまり似合わない。
高いアルコール度数もいまいち。

地酒専門店 新井屋酒店 BLOG-穏 Virgin road 純米吟醸生詰

そんなとき、白麹の酒に出会いました。
白麹の酒は、黄麹の酒に比べて、
多量のクエン酸を含んでいます。
レモンなどの果実に多く含まれるクエン酸は、
通常の清酒に含まれる乳酸やコハク酸などの酸に比べて、
すっきりとシャープな味わいを持っています。
温度も、キリリと冷やして美味しく味わえます。
まさに、ドライな白ワインのような酒。

この酒は、
日本酒の飲まれるシーンを、
大きく変える可能性を持っているのではないかな、と
かなり期待をしています。

2013年2月14日木曜日

僕がお燗酒を好きになったわけ 其の参

昨晩は、35年振りに再会した友人と飲みました。
高校2年の夏にアメリカにホームステイした時の仲間です。
ずっと何のお付き合いもせず、
それぞれの道を歩んでいたのですが、
Facebook ってすごいですね。
「S君って、ひょっとして Mission Viejo のS君?」
というメッセージをある日受け取って、
昨晩に至ったわけ。

お互い、少し薄くなった頭髪の話題は避けつつ、
楽しい身の上話の時間を過ごしました。
損得のない友達っていいですね。

彼も酒が好きだと言うので、
私の大好きなお店に行きました。
阿佐ヶ谷スターロードの奥にある
小さなお店です。
おいしいお燗酒を飲ませてくれます。

どこがおいしいかというと、
まず湯煎。
お好みの温度に仕上げてくれます。
趣味の良い器。
これだけでも、だいぶ気分が違いますね。
一杯目は、
「おつかれさま」 と注いでくれる、ちょっとした心遣い。
やっぱり嬉しいですよね。
料理はもちろんのこと。
それよりも、
お客層をふくめたお店の雰囲気というのかな。
ゆるーく、リラックスした雰囲気に、
ひとりでもボーっと浸れるお店です。

燗酒屋 - 料理写真:

ひとり飲みの薦め みたいな本を読んだとき、
大切なのは、
銭湯に行ったような気分と書いてあったのを覚えています。
さながらお風呂に入った気分で、
ゆっくりとリラックスして、その場を楽しむ。
この店では、
自然にそのように楽しんでいる自分を見つけます。

飲むのは、最初からお燗酒。
2~3本が適量と思っていますが、
友人と飲んでいると、
さすがに越えてしまいました。
仕方ないね。























2013年2月13日水曜日

僕がお燗酒を好きになったわけ 其の弐

ずばり、「おでん」です。

もう20年くらい前のことになるでしょうか。
久しぶりに会う友人と飲もうということになって、
折角だからおいしいものを食べたいな、と
前から気になっていた浅草の老舗おでん屋さんに行きました。

寒い冬の日で、
ぶるぶる震えながらも、
外に並ぶ列に混じって小一時間。
ようやく中に入ると、
鍋の前に立つおやじさんの笑顔に迎えられました。

お店とすると、
もうこの段階で「勝負あった」というところですか。
ポジティブな心構えは整っています。
あとは何が出てきても美味しく感じるはず。

でてきた関西風おでんの、
肩の張らぬやさしいおいしさ。
しっかり味のしみたタコのやわらかさ。
何も特別なものでないから、
古い友人との気楽な会話の邪魔もせず、
そっと寄り添ってくれました。

大多福 - 料理写真:

おでんには、どうしてこんなにお燗酒が合うのだろう。
びっくりするくらいにお酒がすいすいと、
身体にしみこんでゆきました。
初めての体験で、
びっくりしたのを、昨日のように思い出します。

鰻にしてもおでんにしても、
醤油と魚のうまみをベースにした味です。
そして、味付けには酒も入っているのでしょう。
そして、暖かい料理。

ワインと料理の相性に、
「似たものは溶かす」という言葉を聞いたことがあります。
難しい理屈は抜きにして、
まず似たもの同士は相性が良い。

この浅草のおでん屋さんでの体験が、
私にとってお燗酒の入口になったことは、
多分間違いないと思うのです。

2013年2月12日火曜日

僕がお燗酒を好きになったわけ

別に昔からお燗酒を飲んでいたわけではありません。
むしろ、あまり好きではなかった。
というよりは、良くわからなかったというところでしょうか。
酒を飲み始めた頃は、
お燗酒といって年上の人たちが飲んでいる酒を飲んでも、
何の感動もありませんでした。
何のためにこの酒を飲んでいるのか、
どうしていつもお燗酒でなくちゃならないのか、
てんでピンとこなかった。

当然、ワインを美味しいと思い、面白いと思い、
日本酒だったら、「吟醸酒ならまぁいいか」と感じていました。

ごく普通の感じ方だと思います。
普通に現代の食事で育ってきたら、
お燗酒なんか、なくてもよい。
飲むべき場面もないし、
飲まなきゃならない理由もない。

川勢 - 料理写真:(たぶん)左手から、ヒレ焼、きも焼、レバ焼。

でも、この料理に出会って変わりました。
中央線沿線に引っ越して、
この店に入って、
あぁ、もうワインなんかいらない、
吟醸酒なんていらないと、
身体が覚えてしまいました。

ひとり、店のカウンターに座って、
グラスに注がれる熱めの両関。
これでいいんです。
他のお客さんやマスターと話をするのもいいけど、
別に話をしなくても、
ほどよく焼けたヒレ、肝、レバー。
それから串巻き、短冊に八幡。
これに山椒をしっかりと振って食べます。

何て幸せ。
まるでお風呂屋さんで湯船につかっているような、
そんな居心地の良さとほろ酔い加減。
こういう店を名店と言わずに何と言う。

というわけで、
私はすっかり洗脳され、
月に一度は禁断症状とともに、
この店の鰻と燗酒を楽しみに通い続けているのです。